如月寒夜のたくらみごとは…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


丘の上に伝統ある女学園を据えた、
それはそれは由緒正しきお屋敷町でございますと、
さりげなくながらも胸を張ってる土地柄なればこそ。
その辺り一帯の住民の皆様は
細かいところへも眸を配っておいで。
例えば、ご事情があってのこと引っ越して行かれたまま
次の方がなかなか越して来られぬ空き物件のお屋敷も、
荒れ放題なぞにはさせぬ。
持ち主様へ連絡を取り、庭や木々のお手入れを
あくまでも周辺地域の草引きの延長として
手が届く範囲だけ請け負い、そうすることで見通しを良くし、
得体の知れない存在の勝手な出入りがないようにと監視したり。
駅前の一帯へもぎりぎりで文教地区指定を下ろし、
怪しい業種の店は開けられないよう先手を打っていたりと、
環境保全には関心を惜しまぬ方々揃いなお陰様、
穢れを知らないお嬢様がたが、
自家用車での送迎は禁止とされていても大丈夫、
それは無邪気なまま、安心して通って来ることの出来る町なのでもあって。

 「そうまでの心づくしに、
  一体どういう屁理屈を持ってこうというのでしょうかねぇ。」

繊細な町、きれいで清潔な町なのの何処が気に食わないものか、
まずはと気がついたのが、
個人的に監視体制のシステムをこそりと立ち上げていた、
八百萬屋の電脳小町こと 平八だというのがおサスガで。
どうやって登ったのやら、交差点の信号機の裏に小さな落書きを発見し。
こういうのを自慢するおバカがいるんですよねと、
画像投稿サイトを片っ端から検索してみれば、

 誰の手もついてない、でも結構有名な町だぜ♪
 俺が一番乗り、これが証拠だ…なんて主旨の書き込みを発見。

何処かを当ててみなという挑戦ものっぽい代物で、
こんなのに乗るような暇人がいるのかなと、
投稿サイトとそれから、問題の信号機とを文字通り見守っておれば、

 『…うそぉ。』

その投稿スレッドへの追記というか反応というか、

 何処の信号か突き止めたぜ、とか
 落書き小さっ、心臓も小さっ?、とか

さして日を置かず、
挑発的な書き込みをする連中がちょろちょろと集まっていたものだから。
これはどうしたもんかしらんと、
かわいらしい口元をへの字に曲げたその末に、

  まあ、あれだ、
  こういう案件を前にして、
  この人たちのやりそうなことと言ったら、
  その、まあ、なんだ、
  判るっしょ?(こらこら・苦笑)

平日も油断はならないけれど、
学生にせよ そうでないにせよ、
こういうことを企てる“隙間”として狙いそうなのは
日曜祭日が日付的には明けたばかりの未明と相場が決まってる。
そのまま夜が明ければ平日が始まるという夜中は、
明日のことを考えて遊びも“早引け”するいい子が多いので、
案外と手薄で未明までもウロウロしている顔触れはさすがに少ないし、
飲食店も“お片付けモード”に入れば店内のことしか目に入らないので、
外でこそこそ動く気配があっても、ご同業だろくらいにしか思わぬらしく。

 「ましてや此処は、
  お勤めの方々か昼型学生が贔屓にしているよな、
  文教地区型商店街だからねぇ。」

こんな頃合いには無人も同然、
だからこそ出来た悪戯なんだろと
暴露されちゃった“発起人さん”が誰かは知らないけど、

 「これだけの人数をあっと言う間に募った挙句、
  商店街のシャッターへの落書き大会なんて、
  どこのペンキ屋さんが許しても、このアタシらが許しませんっ。」

 「う…っ。」

一人一人は地味な風体の 高校生だか大学生だか、
日頃は大人しいと評されてそうな雰囲気の子が結構いて。
暗がりからとはいえ、明らかに同世代の女子の声音での叱咤へ、
ううとたじろぎその場へ固まった顔触れが大半なのが
微妙に馬脚を現してて分かりやすすぎるくらい。
内緒の悪戯という呼びかけにそそられて、
ついふらふらと出て来ちゃった子たちが大半なのに違いない。
面白そうな謎解きつきのやりとりで、

 “しかも、
  後追いして来たフォロワーたちが
  ヒントを山ほど匂わせてたものだから、
  それで此処だと判ったのも嬉しくなって…と。”

今にして思えば絶妙な“餌”だった。
具体的に、名指しして誘いをかけた訳じゃない、
ただ、そこまで言うならこの場所にお前らも来いよ、ああ行ってやるさ、
標的ンなってると知りもしない呑気な奴らに、
一泡噴かせるイベント開こうぜなんて。
途中から話が何か きな臭くなってたしねと、
平八のこぼしてた懸念を察し、七郎次が細い眉をぐぐと寄せる。
頭数が揃うと弾みもついて、
大人しい子たちでも何をやらかすか判らない。
それに、

 「は? 何の話でしょうか?」
 「つか、お前らこそ何もんなんだよ。」
 「ボクたちぃ、此処のお店の人に頼まれてぇ、
  開店前までに 芸術的なリフォームをですねぇ。」

けらけらと笑っている顔触れが ずるずるした動作で何人か、
先頭へしゃしゃり出て来た様子が、
いかにも場慣れしていて何とも怪しい。
寒くて暗い中を徘徊している怪しい存在なのはお互い様だし、
こちらが小柄な女子ばかりなのへ、
せいぜいレディス崩れのツッパリかとでも思ったか、

 「此処がシマなわけ? お姉さんたちぃ。」
 「此処ってお嬢様学校があるんでしょ? まさか そこの子なのかな。」

 凄げぇ、お嬢様のツッパリって俺初めて見た。
 なんかサ、一昔前の硬派マンガみてぇ、と。

あくまでも歯牙にも掛けぬという構えを崩さぬならばと、

 「……。」

問答無用が得意技の久蔵さんが、両手を勢いよく振るい、
相変わらず切れのいい動作で得物をその手へすべり出させると、

 「…お。」

止める間もあらばこそ。
こちらが立ってたアーケードへのぎりぎり縁のところ、
テラコッタ風赤レンガの敷かれた足元を、
ゴム底のスニーカーで力強くも ざりと擦って蹴ったそのまま、
いかにもな前傾姿勢になって、ひゅんっと飛び出し、
最前列の与太者の、一番端のと擦れ違う。
少しでも俯けば顔に陰が落ちるほど頼りない、
常夜灯のみの明るさという条件は同じじゃあありながら、
街灯が多い側に立ってたのは相手のほうであり。
そんな自分たちへ躊躇なくぐんぐんと迫って来た影が、
あったと気づいたときにはもう すれ違い終えていて。
冗談抜きに、ひいっという情けない声も上がったほどだったが、

 「 …あ。」

体のどこにも何も当たってはないし、腕も足も痛くもないの、
少し間をおいて確かめた端の人。
ほっとしつつも何だこの脅かしやがってと言い返そうとし、
振り返ったそのすぐ間際の背後に、
気配もないまま白い顔の女の子がぬうと立っていたものだから。
立ち止まったにしても、
もっと離れたところでと思い込んでた身には
某『呪/怨』みたいな こんな度肝を抜く演出はなかったらしく。

 「ひっいぃいぃ〜〜〜〜〜っっ!」

 「あら、失礼ね。女の子に何て態度。」
 「ほォんと。しかもAK○も顔負けの美少女ですのに。」

ストリート雑誌の『◎◎◎』読んでないのかしら、
美少女コンテストで優勝したのにねぇと。
元の位置に居残ってた二人が聞こえよがしに言い合ってる間も、

 「………。」

そちらのお嬢さんは端っこの人に張り付いたままでおり。
しかも すうぅっと肩の上へまで上げて見せた手には、
メタリック何とかラッカー仕様と記された、
大きめのスプレー缶を持っていて。

 「えっ、あ、それはっ!」

自分が一丁前にも
腰の作業用ベルトに装着していた缶じゃありませんかと。
肝が縮んだはずの端っこの人が、
咄嗟に腰へ手を当てた そのタイミングに重なって、
ぷ・しゅ〜〜〜〜〜〜っというガス漏れのような音がして。
実は金髪らしいお嬢さん、
下界へ降りて来た月みたいな無表情のまま、
その端っこさんの背中一面に、大胆にも何かを描いて差し上げた模様。

 「わっ、コータ。背中背中っ!」
 「え?え?え? 何だなんだって?」

分厚いダウンは着ている身へは何も伝えなかったか、
何かされてると言われた当人が、
何か妙なダンスよろしく身もだえして見せ、
あわわと延ばして来た手へも塗料がついたのまでは。

 俺のせいじゃないぞと言いたいらしい、
 だがだが相変わらずの無表情なまま

スプレーの先から吹き出し口をキュッと抜き去り、
それを背後の夜陰の中へ ぽ〜いと放る紅ばらさん。
そんな手際をもはや呆然と見ていた仲間内が、はっとした時にはもう遅く、

 「これっぽちで何をリフォームするんだって?」
 「本格的な塗り直しなら、せめてケースで持って来なくちゃあねぇ。」

いつの間に近づいていたのやら、
残りの二人も間近に迫っていて、しかもやはりそれぞれの手にはスプレーが。

 「何て書いてほしい?」
 「安心なさい。
  こうして訊くからには、
  あっちの人みたいな意に添わないものは描きませんから。」

にっこり微笑った二人のお顔は、
よく見ればやっぱりモデルかタレントみたいに美人だったが。
おっとりした物腰と裏腹、足音もさせずのあっと言う間に、
こうまで至近へ駆け寄れている身ごなしは半端じゃないし。

 「な…っ。」
 「うっせぇなっ、何しやがんだよっ!」

慌てて飛びすさって距離を取り、
久蔵に遊ばれたそのまま尻餅ついた端の人を除いて、
あと4人ほどいた内、3人までが
ジャンパーからナイフっぽいものや警棒らしいものを掴み出したものだから、

 「ああ、これでやっと現行犯逮捕出来そうだわ。」
 「ホント。
  落書きなんて何の話?って
  しらばっくれられちゃあ終しまいでしたものねぇ。」

やはりやはり違和感だらけのおっとりしたテンションで、
ふふーと笑ったお嬢さんたち。

 「知ってた?
  警察の人じゃなくてもね、
  現行犯に限っては一般人でも逮捕出来るんだな。」

白百合さんが言い終わらぬうち、
ダッと駆け寄って来た鼻ピアス男子は。
当たればナンボというような勢い任せの攻撃だったものだから、

 「…はうあっ!」

柔らかいジャケット越しゆえの、
布団でも叩くような、
重いが大した衝撃はない反応しか知らなかったのだろうと思われて。
そこへと襲い来たのが、
カツリ、ギン・ゴツンという、堅いわ痛いわ重たいわな級の異様に大きな衝撃で。
こちらは延ばしもしない警棒の柄を、
防具代わりとしっかと握って待ち受けてたそのまま、
的確に当ててやったまでのこと。
しかも、力の逃がしようもちゃんと御存知の白百合さんだけに、
結構な衝撃もそれで生じた負荷も、
ほとんど全部が突っ込んだ側の握った警棒全体に響いて来たのへ
何だこれ、何だこれと素っ頓狂なレベルで驚いたらしく。
腕が折れたとでも思ったか、聞くに耐えない大声を上げる始末であり。
はたまた、

 「舐めてんじゃねぇよっ!」

飛び出しナイフをかざして来た 危険な刈り上げくんは、
だがだが、ひなげしさんに向かったのがまずかった。

 「いやん、怖いぃ〜vv」

なよっと身をくねらせたそのまんま、
体の前、胸元に合わせていた小さなこぶしの出ているところ。
つまりは袖口を、向かって来る相手へ いやぁんと向けたれば、

 「わぁあっっ?!」

何が何やら、判るまでに時間を要したのは他ならぬご本人だったろう。
ばしゅんっとそれは素早く飛び出したのが、
粘着材塗布型の捕獲ネットだったから性が悪い。
もがけばもがくほど、手足が服ごと搦め捕られて
ぎゅうぎゅうと締め付けられてゆくらしく、

 「ヘイさん、それって……。」
 「うん、うっかり粘着材の濃度間違えた、失敗作なんだな。」

鹿とか猪とか増え過ぎたところからの依頼で、
傷つけないよに捕まえるものを考えててさぁと。
あくまでも明るく仰せなところが、却って恐ろしい。

 「うう…。」

揮発性の高い仲間が一気に二人も、あっけなく伸された格好。
追い詰められたと思ったか、
何の武装もなかった一人がへなへなと座り込んだ気配を察し、
それで諦めればいいものを、

 「いい気になってんじゃねぇよっ!」

こちらもナイフを持ってたらしいのが、
ドングリ眼を血走らせ、落ち着き払ってる女子高生らを見回したその末、
コトの順番を覚えてまではいられなんだか、
一番最初に人ならぬ動きを見せた紅ばらさんを目がけ、
大きく振りかぶって うわあぁっと突っ込んで行きかけたのだが。
何だ 来るか?との戦意満々
警棒をシュリンッと鋭く持ち替えて
威風堂々、待ち構える彼女のところへ行き着くその前に、

 「いい気になっておるのは、そっちだろうが。」

振り上げた手を ひょいと余裕で捕まえ、
足が浮くほどの一時停止を強制したのが、それは上背のある御仁。
重たそうな手だって大きくて、そこへぐいと力を込めたれば、
どれほどの馬力が伝わったやら、

 「ひぃいいっ!
  痛てぇよ、やめろよっ! やめてくれってばよぅ。」

ドスを利かせていたはずが、
すぐさまという素早さで、
懇願交じりの金切り声になってしまった情けなさ。
そんな結末にこれはヤバイんじゃなかろうかと、
やっとのこと判断力が戻ったらしい、釣り出されたクチの顔触れたちへも、

 「まあ一応、名前と住所は聞かせてもらうから。」

 都の条例は知ってるよねぇ?
 未成年がこんな時間帯に、
 保護者の連れもなく出歩いちゃいけないって、
 もう随分と前に決まったからねぇ、と。

語りかけて来たお兄さんの後ろだけじゃなく。
いつの間にか通りの前後へずらりと居並んでらした、
私服の、でも刑事さんや補導員の方々なのだろう、
大人の皆様が垣根を作っていらしたので。

 「あ…。」
 「うう。」

これはもうもう観念するしかなくて。
遠くでそっちは救急車らしいサイレンが聞こえる中、
とんだ春休みの幕開けとなったらしいこと、
今更ながらに実感した、困った若人らであったようです、はい。

  そして

最後の抵抗をしかけてた悪たれを、ほれと
駆け寄って来た別の刑事さんへと引き渡したお人こそ、

 「…なんで勘兵衛さんが来ておりますかね。」
 「管轄。」

 「今更そこを語らせたいのか、ハック娘に先鋒小僧。」

勘兵衛様、喩えが古いですよと、
人手が要るのでと人垣のある方へ立ち去りつつも、
ついつい背中で笑った佐伯さんだったのはともかく。

 「大事しか扱わぬ警視庁ではない。それに、」

青少年への育成条例内で収まるか、
はたまた落書きという器物破損で取っ捕まえることになるか、
悪くして暴力沙汰に転がるか…の全部をフォロー出来るのだから、

 「初動捜査に不備がなくて重畳とは思わぬか?」

 「…開き直りましたね、勘兵衛さん。」

実際のところ、こたびの一件は、
ネット上にスレッドを立てた中、
実際にやり取りをしていた顔触れ全員がグルだったらしく。
それへ眸を留め見物に出て来たクチを、共犯だと言い掛かって搦め捕り、
後日に何かと脅して小銭を巻き上げてやんべという、
こすい恐喝をすでに何件かやらかしていたグループだったらしく。

  そんな輩だとまでの調べもつけていたその上に

場所といい 時刻といい、
グッドタイミングで、
しかもあれだけの顔触れを捕り方として揃えていた辺り。
こちらのお嬢さんたちの動き、遺漏なく察知していたに違いなく。

 「〜〜〜。」 × 2

 「選りにも選って、
  割り込みや横入りはずるいという顔をするか、お主たち。」

助かったとかごめんなさいとか、そういう殊勝な顔をせず、
手柄の横取りという顔で、むうと膨れるから呆れるのだと。
ややネクタイを緩めたスーツの上へ、トレンチコートを羽織った壮年殿が、
精悍なお顔をしょっぱそうな色へ塗り替えつつ言い返したが、

 「…勘兵衛様。」
 「お…。」

よくよく見れば学園指定のスキーウェアという、
周到なんだか、手を抜いたんだか、
まま、大人しい恰好ではあった三人娘のうちの。
良識担当のはずな(…)七郎次が、
今の今まで、意中のお人の惚れ惚れするお姿に見ほれてでもいたものか。
あのあのごめんなさい///////と、
遅ればせながら進み出るのもいつものことならば、

 「……。(睨、怒)」
 「久蔵殿、今はこっちへ。」

シチを叱るなと喧嘩腰になって割り込みかかる紅ばらさんを、
どうどうどうと引き取るひなげしさんなのも相変わらず。
保護者の皆様には“春からこれですか”と頭の痛いことだろが、

 『こうでもしないと構ってもらえないと、
  発想が逆転しちゃわないように。
  特に勘兵衛様には、もちょっとマメに連絡取ってもらわにゃあ。』

彼女らの危ないことへの動向を探ったそのついで、
余計なお世話とは言わせませんよという“援護射撃”をするお人も現れた、
今日このごろのお嬢さんたち。
春先の天誅騒ぎへ気づいたものか、
今になってあちこちのお宅の明かりが灯る中、
プランターのビオラの葉っぱが、やわい夜風に揺れていた。





    〜Fine〜  14.02.26.


  *事件の段取りを考えるのに引き摺られるわ、
   たいそうな騒ぎでもない事態へ押さえると
   彼女らの暴れるシーンが大して出せないジレンマが襲うわで。
   活劇を出したければ、結構 段取りが大変になって来ております。
   だったらいっそ、大人しい話だけ書いててというお声は
   あれあれ? おかしいなぁ、聞こえない〜♪(こらっ)

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